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札幌地方裁判所 平成11年(ワ)1411号 判決

原告

森好久子

右訴訟代理人弁護士

佐藤哲之

三津橋彬

笹森学

川上有

被告

北海道交運事業協同組合

右代表者代表理事

川上登貴松

右訴訟代理人弁護士

向井諭

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一  原告の請求

1  原告が被告との労働契約上の地位を有することを確認する。

2  被告は,原告に対し,平成11年3月1日から,毎月25日(当日が土曜日,日曜日,祝祭日の場合にはその前日,3においても同じ)限り,前月21日から当月20日までを1か月とする月額19万7000円を支払え。

3  被告は,原告に対し,平成11年3月1日から,次の金員を支払え。

(一)  6月15日限り 37万5000円

(二)  10月15日限り 7万2000円

(三)  12月15日限り 60万0200円

二  原告の請求原因

1  被告は,一般乗用旅客自動車運送事業を営む法人を組合員として,組合員の取り扱う自動車並びに自動車部品,付属品及び燃料の共同購入などを目的とする中小企業等協同組合法に基づく協同組合である。平成11年4月1日現在,9法人を組合員として,約1900台の車両と約5000人の従業員を擁する。

2  原告は,昭和48年3月26日,被告に雇用され,一時関連会社に移転したことはあるが,被告の経理事務,一般事務,電話交換,無線センター業務などに従事してきた。

3  原告と被告との平成11年2月28日現在の労働条件(ただし,賃金及び賞与の支払日が土曜日,日曜日,祝祭日の場合にはその前日とする)は,次のとおりであった。

(一)  月例賃金19万7000円

基本給 15万8000円

基準外 3万9000円

毎月25日限り,前月21日から同月20日までの1か月分を支払う。

(二)  年間賞与など

(1)6月15日 夏季賞与37万5000円

(2)10月15日 燃料手当7万2000円

(3)12月15日 冬季賞与60万0200円

4  被告は,平成11年1月26日,原告に対し,同年2月28日をもって解雇する旨意思表示した(以下,本件解雇」という)。

5  本件解雇に至る経過について

(一)  原告は,昭和48年3月26日,被告に事務員として雇用され,経理事務に従事した。昭和52年4月から平成7年3月31日まで(その間,平成3年11月2日まで関連会社の日清総業株式会社に身分を移転した),管理課の一般事務及び電話交換事務に従事した。

(二)  被告は,平成7年3月,原告を含めた40歳以上で10年以上勤務している女性職員10名の解雇を通知した。原告は,給与を24万6000円から19万7000円に減額され,無線センターに配置転換されることで,雇用継続された。

(三)  被告は,平成10年8月15日から,無線センターにGPSシステムを採用した。従来の無線で配車していたときより,従業員を減らすことができるようになった。

(四)  平成11年1月26日,原告は,上司である無線部長の小林以和夫(以下「小林部長」という)から,管理部門の合理化と札幌4社を2社にするに当たり人員整理をするので,原告も対象となっている旨伝えられた。同月29日,原告は,生活もあるので辞めたくない旨答えた。小林部長から,同年2月28日をもって,解雇する旨言い渡された。

(五)  無線センターには,部長を含めて26名が配置されていた。平成11年3月から,20名体制になり,組合員である各法人に所属することになった。減員の対象とされた6名は,原告以外は男性従業員であった。1名は,定年退職間近の従業員でその従業員は退職し,残り4名は,組合員である各法人の乗務員となった。

(六)  原告の所属する自交総連北海道地方連合会北海道交通職員支部に対して,事前に人員整理を必要とする理由及び人員整理計画の説明はなかったし,本件解雇に関する団体交渉において解雇の実質的理由の説明はなかった。

6  本件解雇の無効理由

(一)  本件解雇は,就業規則19条1項5号「事業の縮小,廃止,その他止むを得ない事業の都合により剰員になったとき」に該当しない。

(二)  本件解雇が合理化を理由とする整理解雇であるとすれば,整理解雇の要件である(1)人員整理をする経営上の必要性の有無,(2)整理解雇を回避する手段があったか否か,又は整理解雇を回避する努力を尽くしたか否か,(3)被解雇者の選定の合理性(整理解雇の基準の合理性及び基準の適用の合理性)の存否,(4)解雇手続の相当性,合理性の存否(労働組合と協議を尽くしたか否かなど)を満たしていない。

本件において,人員整理をする必要性は,企業の存続が危うい程度に差し迫ったものではなく,より一層収益を上げるための合理化の結果でしかない。原告は,各種事務を担当する事務員として雇用されたものであり,無線事務のみを担当するものでも,乗務員として雇用されたものでもない。人員整理をする必要性は,被告の事務部門全体を一体として検討されなければならない。また,被告は,合理化によって得る収益により,減員対象者を他の部門で吸収できるか否かも検討せず,整理解雇を回避する努力を尽くしていない。経営合理化による人員整理を進めるに当たっては,労働者に対し,経営状況の内容を示して人員整理の必要性について納得させ,その実施方法について理解と協力を求めるべきであることが労使間の信義則上当然に要求されるのに,被告は,その義務も履行していない。

(三)  本件解雇は,解雇権の濫用である。

原告は,無線センターに勤務する唯一の女性であった。原告は他の男性従業員のように24時間の隔日勤務ができず,1日実働8時間の日勤勤務であったが,人員整理の必要性・合理性について事前の説明や労働組合との協議もなく,希望退職を募ることや配置転換を打診することもなく,他の男性職員は乗務員として配置転換されたのに,原告についてのみ退職が強要されたものである。原告が女性であることが故の差別的取扱いである。

7  よって,原告は,被告に対し,労働契約上の地位にあることの確認と,平成11年3月1日からの賃金や賞与等の支払を求める。

三  原告の請求原因に対する被告の答弁

1  請求原因1ないし4の事実は認める。

2  請求原因5(一)ないし(三)の事実は認める。

同(四)の事実のうち,原告が平成11年1月26日に小林部長から管理部門の合理化に当たり人員整理をするので原告も対象となっている旨伝えられたこと,及び同月29日に小林部長から同年2月28日をもって解雇する旨言い渡されたことは認める。

同(五)の事実は認める。

同(六)は争う。

3  請求原因6は争う。

4  被告の主張

本件解雇は,次のとおり,就業規則19条1項5号に該当する有効な解雇である。

(一)  原告は,被告の無線配車業務部門で勤務していた。被告の無線配車業務部門は,平成10年7月から,GPSシステムを採用した。新たなシステム導入の初期は,扱いに慣れないから,人員を余分に配置していたが,習熟することにより,従前の26名体制から20名体制で稼働することが可能になった。

(二)  すなわち,従前の無線システムでは,26名を,4名の無線オペレーターと7名の電話担当者からなる11名(公休者2名を加えると13名)のグループに分けていた。GPSシステムでは,20名を,2名の無線オペレーターと6名のGPSシステム担当者の8名(公休者2名を加えると10名)のグループに分けることで足りる体制になった。6名の剰員が生じた。

(三)  原告は,札幌市内及び近郊の地理の知識に劣り,従前の無線システムでも住宅地図の検索,場所の発見,地図の作成作業等に支障を来していた。新システムに移行するに当たって,GPSシステム(このシステムでは,顧客の配置場所を地図で捜し,配車伝票に地図を書いて,登録係に登録してもらう必要がある)に最も適さない1人であった。

(四)  原告は,運転免許がないから,乗務員として勤務することはできなかったし,他の管理部門で就労可能な場所はなく(平成3年から平成11年までの管理部門では,130名以上の減員をしている),他に従業員を解雇してまで原告を雇い入れる理由はなかった。

(五)  原告の家族状況をみても,夫は特別地方公務員であるし,子供らは大学等の卒業間近であるから,退職金約430万円と雇用保険の給付があることからして,その不利益は一家の支柱や幼い子供のいる者より少ない。

(六)  原告所属の労働組合との間の人事同意約款は存在しないから,労働組合との協議手続は必要ない。本件解雇当時,被告は,原告が労働組合に加入していた事実すら知らなかった。

(七)  本件解雇は,原告主張の4要件を必要とする整理解雇の事案には該当しない。

四  証拠

本件記録中の証拠目録記載のとおりである。

理由

第一事実関係

請求原因1ないし4の事実,請求原因5の(一)ないし(三)の事実,同(四)の事実のうち,原告が平成11年1月26日に小林部長から管理部門の合理化に当たり人員整理をするので原告も対象となっている旨伝えられたこと,及び同月29日に小林部長から同年2月28日をもって解雇する旨言い渡されたこと,同(五)の事実は,いずれも当事者間に争いがない。

右争いのない事実に,本件証拠(〈証拠・人証略〉,原告本人尋問の結果)並びに弁論の全趣旨を総合すると,次の事実を認めることができる。

一  当事者

1  被告は,一般乗用旅客自動車運送事業を営む法人を組合員とし,組合員の取り扱う自動車,自動車部品,付属品及び燃料の共同購入などを事業目的とする中小企業等共同組合法に基づく協同組合である。平成11年4月1日現在,北海道内外の9法人を組合員として,総計約1900台の車両,約1万5000人の従業員を擁する,道内最大のハイヤー・タクシー業者である。札幌市における被告の組合員はそれまで4社であったが,平成11年3月1日,札幌交通株式会社と日本交通株式会社,共同交通株式会社と共栄交通株式会社がそれぞれ合併し,札幌交通株式会社と共同交通株式会社の2社となった(〈証拠略〉)。

2  原告(昭和18年12月4日生)は,昭和48年3月26日,公募により被告に採用された。原告は,被告に採用された後に北海道交運ビルの管理を行っていた被告の関連会社である日清総業株式会社に身分だけを移されたことがあったが,一貫して,被告の経理事務,一般事務,電話交換,無線センター業務に従事してきた(〈証拠略〉,原告本人)。

原告は,平成7年3月に無線センターに配属される以前は,管理課に勤務し,北海道交運ビルの管理,高速洗車作業員の管理(管理課職員へのお茶出し,雑務及び伝票の整理など)を行っていた(〈人証略〉,原告本人)。当時の給与は月額24万6000円,年収は400万円程度であった(〈証拠略〉,原告本人)。

なお,原告の夫は,特別地方公務員(市議会議員)であり,700万円程度の年収があり,3人の子供は,大学を卒業した者と大学生である(原告本人)。

二  無線センター業務

1  無線センター配属に至る経緯

平成7年3月31日,若年層の職員に比して,勤続年数の長い職員の給与が高額になってきたため,原告を含めた10年以上勤続で40歳以上の女性職員11名全員が,解雇を言い渡された。原告以外の女子職員は,全員退職した(〈人証略〉,原告本人)。

原告は,労働組合である自交総連北海道地方連合会に加入し,北海道交運職員支部を結成して,被告に対し,雇用の継続を求めた。被告は,原告の給与を月額19万7000円に減給した上で,無線センターに配属した(〈証拠略〉,原告本人)。

2  無線センター業務

(一) 無線センターには,それまで30名の職員が配属されていたが,平成7年3月の合理化により,原告を含め部長以下26名に減員された。1グループ13名(うち公休2名)からなる2グループで構成された。原告は,無線センターにおける唯一の女性職員であった。原告と他の3名の職員を除いた職員は,タクシー乗務員の経験があった(〈人証略〉)。

(二) 原告の無線センターでの業務は,以下のようなものであった。

顧客からの電話を受け,コンピュータに電話番号を入力する。以前に配車した顧客の場合は,顧客情報(住所,マンション名,部屋番号,名前,道順など)を確認した後,配車オペレータにコンピュータを通じて電送する。新規の顧客の場合は,顧客情報を伝票に入力し,ゼンリン住宅地図を参考にしながら乗車地点までの略図を記入し,これを配車係に手渡す(〈証拠・人証略〉)。

原告は,乗務員の経験がなく,居住地も江別市であったため,一部の札幌市内の地名を把握していなかった。そのため,ほかの社員が2,3分で行う新規顧客の乗車地点の検索及び地図検索の作業に10分程度かかることがあった(〈人証略〉)。

無線センター配属後の最初の約半年間は,原告は住所を書くのみで,熟練した職員が原告に替って地図を作成した。その後,原告が地図を作成することになった。しかし,原告の効率が悪かったため,解雇を言い渡されるまで4年間,熟練した職員の横の席に配置され,原告が分からない地域の検索や地図の作成は,この熟練した職員が行った(〈人証略〉,原告本人)。

なお,無線配車は,タクシー乗務全体の25パーセント程度である。そのうち新規顧客は30パーセントで,あとの70パーセントは,電話番号を入力すれば顧客情報が出てくるため,地図作成は不要である。電話番号の入力については,原告の作業能力が特に劣ることはなかった(〈人証略〉)。

(三) 原告の勤務形態は,月曜日から金曜日までが午前8時から午後5時まで,土曜日が午前8時から正午までであり,日曜日は休日となる,1日8時間の日勤勤務であった。原告以外の無線センターの職員は,隔日ごとの24時間勤務であった。このように原告だけが他の職員と就業時間が異なるため,ローテーションを組む際,不便があった(〈人証略〉)。

(四) 原告は,被告の定める給与規定に基づき,平成11年2月28日現在,前月21日から当月20日までを1か月として,毎月25日(当日が土曜日,日曜日,祝祭日の場合にはその前日)限り,19万7000円(基本給15万8000円,基準外手当3万9000円)の給与の支給を受けていた(〈証拠略〉)。

また,原告は,被告から,毎年賞与と燃料手当の支給を受けており,平成10年6月15日に夏季賞与として37万5000円,同年10月15日に燃料手当として7万2000円,同年12月15日に冬季賞与として60万0200円の支給を受けた(〈証拠略〉)(ママ)

三  GPSシステムの導入

1  被告の競争企業である札幌市内のタクシー会社のうち,SKグループ,協和交通の2社は,被告に先立ち,衛星通信回線を利用して自動的に顧客の乗車位置に最も近い空車を識別できる配車システム(以下「GPSシステム」という)を採用していた。GPSシステムは,その採用により生産性が伸び,顧客からも「早い,サービスがいい,安全である」との評判が高かった。被告は,平成13年にタクシー業界が規制緩和され,自由競争が始まることから,GPSシステムの採用を決定した(〈人証略〉)。

2  平成10年7月,無線センターにGPSシステムが導入された。これにより,登録済みの顧客情報が自動的に検出され,顧客のいる場所から一番近い空車が検索され,自動的に配車を行えるようになった。また,1本当たりの電話の応対時間が短縮された結果,無線センター全体でそれまで1日当たり多い時で5000本であった配車回数が6000本に上がり,7000本を上回る日も生じた。

GPSシステムの導入により無線による配車作業が不要になったため,従来26名(1グループ13名の2グループ)で行っていた作業が20名(1グループ10名の2グループ)で行えるようになった。なお,現在は,2名の自然退職により,18名で行っているが,十分対応ができている(〈人証略〉)。

3  平成11年1月10日ころ,小林部長は,被告の常務理事を務める八重樫正博(以下「八重樫常務」という)に対し,GPSシステム導入により6名の剰員が出る旨報告した。その結果,八重樫常務の指示により,無線センターの人員を6名減員にし,小林部長が減員の6名の職員を人選することにした。定年間近である職員1名,電話対応がよくなかった職員4名と地図検索・作成能力の劣る原告であった。これらの職員のうち定年間近であった職員は退職に応じ,原告を除く他の4名の職員は,乗務員に配置転換された(〈証拠・人証略〉)。

4  被告は,原告について被告の就業規則19条1項5号の「事業の縮小,廃止,その他,止むを得ない事業の都合により剰員となったとき」(〈証拠略〉)に該当すると判断したが,他に配置転換する職場がないことから,原告に退職を勧奨することにした。

四  原告への解雇通知

1  小林部長は,平成11年1月26日,原告に対し,「協同組合の管理部門の合理化と札幌4社を2社にするに当たり,人員整理をする。8時間体制の仕事もなくす。原告は伝票操作の完成スピードが遅く,人員整理の対象になっている。家人と相談して退職を考えて欲しい」旨伝えた(〈証拠・人証略〉,原告本人)。なお,それ以前に,被告から原告に対して,人員整理についての必要性,合理化についての事前説明,労働組合との協議,希望退職や配置転換の打診などはなかった。

2  平成11年1月29日,小林部長は,原告に対し,「先日の話,理解してくれたでしょうか」「3月1日付けで,被告の組合員が合併して4社から2社に減るので管理職員を整理することになった。また,無線の機械も新方式のものになった。その中で日勤者の仕事はなくなる。退職しないのなら解雇する」と言って原告の退職の意思の有無を確認した。原告は,「頭が混乱して判断がつかない」「生活もあるので辞めたくない」と答えた。小林部長は,原告に対し,「免許があれば乗務員にしてもいいが,あなたは免許がないので他の行く場所がないのでここで解雇します」と告げ,被告の就業規則21条の予告解雇の規定に基づき,平成11年2月28日付けで解雇する旨口頭で通知した(〈証拠・人証略〉,原告本人)。

3  平成11年2月2日,原告は,小林部長に対し,札幌交通労働組合の委員長である高木忠夫(以下「高木」という)と話し合って欲しいと申し入れた。小林部長は,被告の職員である原告の解雇につき,札幌交通株式会社の乗務員の労働組合である札幌交通労働組合と話すべき事項かどうかについて判断が付かなかったことから,「もう決めたことだ。団体交渉は受け入れられない」と答えた(〈証拠略〉)。

4  平成11年2月12日,原告は,団体交渉を申し入れる旨の被告理事長宛の封書を持参し,小林部長に対し,被告理事長にこれを渡すように求めた。小林部長は,原告に対し,封書の内容を確認したが,原告は,「渡してください」と言うだけであったことから,小林部長は,この封書の受領を拒絶した。

5  平成11年2月17日,原告は,北海道地方労働委員会に対し,申請者を自交総連北海道地方連合会執行委員長の高木と北海道交運職員支部支部長の原告とし,申請内容を団体交渉の応諾及び雇用の継続とするあっせんを申請した(〈証拠略〉)。

6  平成11年3月1日,第1回地方労働委員会あっせん調整が行われた。組合側から自交総連北海道地連委員長の高木,同書記長の菊地一夫及び原告が,被告側から八重樫常務,川上一夫理事,小林部長が出席した。このあっせん調整により,被告が団体交渉を受けることが確認された(〈証拠略〉)。

7  平成11年3月4日,高木委員長が,面談の上,団体交渉の申入書を八重樫常務に渡した。その際,非公式に八重樫理事と1時間位交渉した(〈証拠略〉)。

8  平成11年3月8日,被告は,原告名義の銀行預金口座に退職金約430万円を振り込んだ(〈証拠略〉)。

9  平成11年3月12日,組合側から高木委員長,菊地書記長,杉本書記次長及び原告が,被告側から八重樫常務,川上理事及び小林部長が出席し,団体交渉が行われた。

原告らは,本件解雇は,解雇通告の事前説明,解雇の必要性・合理性,配置転換など整理解雇回避の努力を欠く不当な解雇であるとして,雇用の継続を求めた。

被告側は,原告の解雇は,就業規則19条1項5号に該当する,現在,被告及び被告傘下の各社の管理部門の人員整理を行っている,無線センターにおいても20名に人員を削減した,原告以外の整理対象となった職員には全員理解してもらった,無線センター及び被告のほかの場所にも原告の働く場所がない旨主張し,解雇の撤回はできないと答えた(〈証拠略〉)。

五  現在の被告及び被告傘下法人の女性職員の就業状況

1  被告(〈証拠略〉)

平成11年3月当時,被告には,次の管理部門があった。各部の人員及び女性職員の業務状況は,以下のとおりであった。

(一) 総務部

女性職員1名のほか,交通事故関係の業務を担当している業務課長(男性)が配置されていた。

女性職員の業務は,(1)社内文書,関係官庁に提出する書類及び人事記録等の作成,整理,保管,(2)約5000名いる職員らの制服及び日常消耗品の発注,業者との価格交渉,(3)被告所有のアパート(120戸)の賃貸借に関わる業務,その他の組合名義の不動産の管理,(4)交通事故処理業務である。右業務には,コンピュータ操作の能力,法律知識,事故処理の経験,運転免許資格があることが望ましい。女性職員は,コンピュータに習熟し,交通事故を扱った経験があり,運転免許を有している。

(二) 財務部

女性職員のほか課長(男性)が配置されていた。

女性職員の業務は,(1)資金管理,(2)出入金の管理,(3)手形小切手の発行,管理,(4)被告傘下のタクシー会社10社の金銭管理,(5)右金銭についての銀行との間のコンピュータ処理である。右業務には,コンピュータ操作の正確な能力が不可欠である。女性職員は,平成3年から財務部に勤務し,右仕事に精通している。

(三) 経理部

女性職員1名,派遣女性社員2名のほか,部長,男性職員8名が配置されていた。

経理部の職員は,それぞれ被告と傘下のタクシー会社10社のいずれかを担当して,経費の計算,管理,決算書類の作成などを行っている。右業務には,経理の経験とコンピュータの知識が不可欠である。女性職員も,平成3年から経理の仕事を担当し,168台のタクシーの経理,職員約120名の給与計算を担当しているほか,燃料,タイヤ,部品等の経費の計算,チケット集計を担当している。なお,派遣社員は,コンピュータ操作を専門に行っている。

(四) 秘書席

秘書席には,女性職員が2名が配置されている。秘書業務は,理事長,副理事長など役員の資料作成,保管,スケジュールの管理,調整等の広範な業務も行うため,信頼がおける職員でなければならない。各種資料の保管や計算のため,コンピュータの操作能力が不可欠となる。役員の行動に合わせなくてはならないため,就業時間が不規則である。現在秘書席にいる女性職員2名のうち1名は,昭和60年から平成3年まで秘書業務,その後,平成10年7月から再び秘書業務を担当しており,もう1名は,平成7年から秘書業務を担当している。

(五) なお,以前は,一般事務を担当する女性職員がいたが,現在は,一般事務を担当する女性職員はいない(〈人証略〉)。

2  札幌交通株式会社及び協同交通株式会社(〈証拠略〉)

(一) 現在,札幌交通株式会社には,女性職員2名,男性職員33名が勤務している。

(二) 女性職員は,勤務時間を早番と遅番に分け,1週間交代で勤務している。早番は,平日は午前7時30分出社で午後5時退社,土曜日は午前7時30分出社で午後3時退社である。遅番は,平日は午前8時出社で午後5時退社である。日曜祭日も,交代で,1名が午前7時30分に出社し午後3時に退社する。日曜祝日出勤の者が平日に代休を取得するため,平日のうち1日は,残った者が1人で仕事をする。

平日の業務は,早番の者が,午前7時30分から食器洗いや掃除をした後,午前8時ころから,(1)約550名の乗務員の日報とJ.D(タクシーの走行距離,走行時間,空車時間,実車時間,料金などをカードに記録するシステム)のデータの確認,日報の金額確認,(2)各種割引による日報金額の修正,(3)タクシーチケットの分類・集計(1日約1200枚の5種類のチケットを種類ごとに分類・集計する),(3)売上の集計とコンピュータ入力,(5)ジャンボタクシーの営業報告書の作成(台数は少ない),(6)1日平均7点から8点のタクシー内での忘れ物の管理などを行う。これら作業は,午前中に完了しなければならないので,非常に忙しい業務である。

午後は,(1)両替用の金銭の補充,(2)小口預金の管理,(3)日用品,事務用品の購入,(4)未払金の集計,(5)乗務員の雇用保険,社会保険の管理,傷病になった乗務員の書類作成,(6)100名程度いる60歳以上の乗務員に対する一部補助金の書類作成(毎月10日)などを行う。特に,一部補助金の書類作成は,細かい手続が必要であるため,ある程度の熟練が必要である。

(三) なお,男性職員は,タクシーの配置などを含む営業業務を担当している。右業務には,タクシー業務に精通していることが必要である。

(四) 協同交通株式会社での女性職員の勤務状況は,札幌交通株式会社とほぼ同じである。

第二判断

一  前記認定のとおり,本件解雇は,被告の就業規則19条1項5号の「事業の縮小,廃止,その他,止むを得ない事業の都合により剰員となったとき」に基づくものであるから,企業の経営の合理化による余剰人員の整理,いわゆる整理解雇の性質を有するものと認められる。そして,一般に解雇は,労働者の生活に重大な影響を与えるものであり,整理解雇は,労働者の責めに帰すべき事由がなく使用者側の都合による解雇であるから,人員整理をする経営上の必要性,被解雇者の選定の合理性,解雇回避の努力を尽くしたか否か,解雇手続の妥当性などの諸事情を総合考慮して,整理解雇をする相当の理由がない場合には,解雇権の濫用として整理解雇することは許されないと解すべきである。

二  これを本件についてみるに,1 人員整理をする経営上の必要性については,経営者の合理的な判断に基づく裁量が認められるべきであり,タクシー業界の規制緩和・自由競争に備えて生産性を上げるためにGPSシステムを採用することは企業経営上合理的なものと認められるし,GPSシステムの採用によって無線センターに配属された職員のうち6名の職員が余剰人員なるとの判断も不合理とは認められないから,無線センターのうち6名を余剰人員として整理をする経営上の必要性・合理性は肯定できる。2 更に,無線センターの余剰人員6名の選定についても,退職予定者1名と電話対応に問題のあった4名のほか,他の職員に比べて地図検索能力に問題のあった原告を選定したものであり,その選定に合理性がなかったとは言えない(原告が女性であることを理由に選定したとは認められない)。3原告を解雇したことについても,原告は,運転免許証がないから他の職員のように乗務員として配置転換することはできないし,被告ないしその組合員であるタクシー会社の事務員の勤務内容や勤務状況に照らせば,原告を配置転換すべき事務職を見出すことはできず,原告の家庭状況も考慮した上,原告を解雇するとした被告の判断が不当・不合理であるとは言い難い(被告の経営状況は,原告の雇用を継続するだけの余裕がある(原告を解雇しなければ被告の倒産が必至であるものではない)とは認められるが,だからと言って,配置転換(ないし出向)すべき適当な職種がないにもかかわらず,余剰になった人員の雇用をなお継続することを法的に強制・要求することはできない。また,無線センター部門の6名の人員整理であるから,一時帰休や希望退職の募集の手段をとらなかったことをもって,解雇回避の努力を尽くしてないと評価することもできない)。4 また,被告の就業規則や原告所属の労働組合との間の労働協約において,いわゆる人事同意約款があるとの事実は認められないし,原告が本件解雇前に労働組合の組合員として活動していた事実もうかがえないのであるから,本件解雇に当たり,原告所属の労働組合との団体交渉をしなかったことをもって,整理解雇の手続の妥当性を欠くと評価することはできないし,小林部長の原告に対する解雇の説明が十分であったか否かは問題とする余地はある(無線センターでの余剰人員の整理の一環であり,原告を配置転換すべき場所がないことの説明は一応されている)としても,本件解雇を無効とするだけの手続違背があるとは認められない。5 その他,本件解雇が女性故の差別であるとは認められないし,平成7年3月の解雇・配置転換をもって本件解雇が無効になるとの理由もない。

三  右の検討のとおり,本件解雇は,被告の就業規則19条1項5号所定の理由があり,整理解雇として合理的な理由を欠き相当でないとすることはできず,解雇権の濫用とは認められない。

第三結論

よって,原告の請求は,いずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する(口頭弁論終結の日・平成12年3月3日)。

(裁判官 小濱浩庸 裁判長裁判官小林正明及び裁判官鵜飼万貴子は,転補につき,署名押印することができない。裁判官 小濱浩庸)

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